1%のキセキ
「花だけじゃなくミニトマトやパセリなんかも作ってね。あんなことになるなら、もっと早くこっちに来て好きなだけ作らせてやれば良かった。庭に小さな畑を作って、四季折々の花を植えて……」
こんな風に自分のことを話してくれることはあまりない。
私はいつも気の利いた返事を思いつくことはできず、結局静かに聞くことしかできなかった。
「君がそんな顔するんじゃないよ。だけど……、こんなこと今まで誰にも言えなかったのにな」
眉を寄せながら少し困ったようにそう言う彼。
私に心を開き始めてくれてる……?
ふっと心に淡い希望が生まれた。
「君が来るようになって、生活は変わった。君と過ごすようになって見えるものも、感じるものも見違えるようだった。君がきっとそう計らってくれているんだろう?少しでも気分転換できるような機会をつくって」
「……いいえ、私が勝手にやってることですから。しかもかなり強引に」
「そうだな」
「でも、そのおかげで今こうしてご飯をおいしいと思えている。花や星を綺麗だと、柚子がいい香りで湯船が気持ちいいと。そんな当たり前の感覚がまた蘇ってきた」
無駄とも思われる私の行動は、少し報われたのかな。
そんな風に嬉し泣きをこらえて笑う。
まさか次の瞬間の言葉に、裏切られようとは知らずに。
「ありがとう。……だけど、それも今日までにして欲しい」
彼の表情は一つも変わらない。
ただ淡々とそう私に告げた。
「君に心配してもらわなくても、俺も大人だ、しかも君よりずっと年上の」
「俺も少しずつ前に進んでる、もう君の手を借りなくても大丈夫だ」
「大丈夫、お酒も控えるから」
いきなり突き放されたことに、頭がついていけず、それからも続く部長の言葉なんてまるで頭に入って来なかった。