1%のキセキ
彼の働く後ろ姿を思い出した。
彼が病棟にいるだけで、皆に絶大な安心感をもたらす。
今何が起きても高城先生がいるから大丈夫。
何があっても絶対何とかしてくれる。
その期待を彼は裏切らない。
皆が信用している、なくてはならない存在。
だけど忘れちゃいけないのは、彼が背負うもの。
最終的な判断を任せられるということは、責任を全て背負うということなのだ。
それなのに、彼はそれを周りに微塵たりとも感じさせず、あろうことか口を開けば冗談ばかり。
部長としての威厳なんてないかもしれない、だけどその親しみやすさにどれだけスタッフが助けられているか……。
度が過ぎたからかいに怒ることもあるが、やっぱり彼以外の人なんて考えられない。
一緒にいると、やっぱり好きなんだと実感する。
「はい」
不幸そうに見えるか、その直接的な問いに私も率直に答えた。
その私の潔い返事に、先生の眉が少し動く。
「こんな部屋に住んで、お酒にしか希望を見いだせない先生なんて死んでるも同然です。そんな人がどうしたら幸せそうに見えるんでしょう?」
まるで奥さんが亡くなった時に、この人の心も連れて行かれてしまったかのよう。
こんな生活感のない部屋に、いつこの世から消えてもいいかのような無気力な生き方。
仕事に逃げて、お酒に逃げて、彼の体は自ら確実に破滅へ向かっている。
私はそれをどうしても止めたい。
「奥さんが今のあなたを見たら、どう思うでしょうかね?そう思ったら情けなくはありませんか」