1%のキセキ


経口摂取できなくなってしまったために、鼻から胃までチューブを入れて、外部から強制的に栄養剤を流し込む治療。

一般病棟では嚥下機能が低下した高齢の患者や、脳疾患の後遺症による嚥下障害から、胃管チューブを入れて栄養を直接送り込むのだが……。


ここでは全く嚥下機能に問題ない若い子が、そんな治療を受けている。


異様な光景だった。


外科は、基本手術すれば改善するという単純明快な分野。
高齢で様々な既往歴を抱えていると、複合的な判断も必要とされるためそう一概には言えないが。


しかし、ここには完治という言葉がない。

再発、悪化、寛解を繰り返し一生付き合って行かなくてはいけない病気。

同じ患者でも俺には到底どう対処していいか全く想像がつかない。





入院患者の様子を見ていると、ちょうどナースステーションから出てきた知り合いの医者に声をかけた。
こいつは学生時代の同期だった。



「谷垣、久しぶり」


そう声をかけると、俺の顔を見るなり驚いてかけ寄ってきた。


「おぉ、黒瀬じゃん。久しぶりっ」

「ちょっと相談したいことがあってさ、今話せるか?」

「なんだよ、お前から声かけてくるなんて珍しいな」


俺の切実な表情から軽々しい話ではないと察したのか、小さな個室に通された。
恐らくいつもは、患者と個別に話したい時に用いられている部屋だろう。



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