1%のキセキ
しがらみからの解放
<side 黒瀬>
いつも閑散としている外科医局。
しかし今日は平日にも関わらず珍しくOPEが入っていないせいか、外来終わりのうるさい外科医局長の柏木部長と病棟回診を終えた後輩の阿部がいた。
「阿部くん、今度俺の娘と会ってみないか?いやー親の私が言うのもなんだが、嫁に似て綺麗な子なんだよ。これが写真なんだけど」
そう言って一枚の写真を後輩に見せる部長。
後輩はそれを見て困ったように笑うと俺にふってきた。
「有難い話ですけど、俺にはまだ早いですよー。黒瀬先生に勧めてみては」
「奴はだめだ、あんなスケコマシ、娘が苦労するのは目に見えてる。手術の腕はいいが性格がな」
部長がこそっと言った発言を聞き逃さない。俺が聞いていないとでも思ったのだろう。
「部長、聞こえてますよー」
医学書から目をそらさず抑揚なくそう言うと、すぐさま気持ち悪い猫なで声を出しながら近寄ってきた。
「い、いやー、黒瀬君、君のオペは評判良いよー。さすがうちのエース!これからもよろしく頼むよー」
今日もゴマを擦りながら俺のご機嫌を伺っているが、裏では傲慢だとか生意気だとか、俺の悪口を言っているのは知っている。
そんな部長ににこりともせず、突拍子もない質問をした。
「部長、安生先生ってどんな先生ですか?」
「安生先生?昔からいる先生だよ、今は内科全般任せられてるが元々は循環器専門でな」
それを聞いていた阿部が不思議そうに尋ねる。
「へー、でもカテとかやりませんよね?」
「あー、へったくそだからな。前はそれでも多少はやってたんだが、心マしてカタボン潰しながらICUに帰ってきた時は絶対やらかしたなって思ったよ」
内科の失敗をさぞ嬉しそうに話す部長。
どこの病院にもあることだが、うちの内科と外科が犬猿の仲だというのは病院内では有名な話だった。