1%のキセキ


「え?ま、まさか本当に?辞めるつもりなのかい?いやいや、困るよっ。ある意味、うちの病院オペ件数で成り立ってるもんなんだから。外科の稼ぎ頭である君に辞められたら経営的なとこで理事長に何と言われるか」

目に見えて情けない程慌て始める部長。
肩を掴まれ揺すられ始め、思わず言葉が乱暴になる。


「抜けたら困るかって聞いただけで、まだ辞めるなんて一言も言ってないじゃないですか。そんなに取り乱さないでください、みっともない」


揺すっていた手が止まり、ぴきぴきと青筋を立てながら再び激昂し始めた部長。


「まぁ、最悪そうなるかもしれませんけど、だからもし俺がピンチになった時は助けて下さいよ?」

「は?ピンチ?一体何をしでかすつもりなんだっ?」

「まぁ別にここに何の未練もないし、他の病院行ったっていいんですけどね」



栞は仕事に何か特別な思い入れがあるようで、誰に何と言われようとも頑として辞めるつもりはないようだ。

あいつにセクハラされて薬に依存するまで精神的に参ってるのに、何をそこまで彼女を仕事に駆り立てるのか。

普段から自分のことはあまり話さないため、何を考えているのかさっぱり分からない。

しかし自分から辞めないと言うなら、安生先生を辞めさせるしかない。

まぁ、元凶は安生先生にある訳だから奴が辞めるのが筋だよな。

ただ、長年この病院に勤めた内科部長を辞めさせるにはそれ相応の理由が必要になる。
セクハラは十分過ぎる理由になるが、その相手が噂で出回らないか心配なのだ。

別件で上手く辞職に追い込めないか考えるもなかなかいい案は浮かばない。

セクハラされた相手として院内に噂が出回れば、狭い業界だからその噂は彼女の会社にも届くだろう。

必然としていづらくなるだろうが、セクハラされて耐え続けていたような彼女だ。更にボロボロになったとしても、それでも仕事にしがみつくんだろうな。

どのみち、とりあえず彼女には仕事を辞めてもらわないと、心の安息などのぞめないということか。


はぁ、分からない。
そんなに今の仕事が楽しいのか?


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