1%のキセキ
<side 皐月>
あの子を焚き付けといて私は一体どうしたいんだろうか。
だけど同期の仲間がへこんでいるところは見ていられない。
しかも結婚する女に、未だに未練を残しているなんて……。
本人はもう気持ちはないって言ってたけど未練たらたらなのが表情から伝わってくる。
同期、いや戦友の宗佑が悲しむのは嫌だ。
唯一誘いを断らない彼女が、そんな宗佑を癒してくれたら。
そんな願いを込めて、わざわざ彼女を探して告げ口してやった。
はぁ、そんな人の恋路の慰めだとか応援だとかしてる場合じゃないんだけどね。
藤沢皐月、医者になって早5年。
大学病院を飛び出して逃げるように地方の病院にやって来た。
以前とは180度変わった職場環境に、それはそれは居心地が良かった。
ここらに大きな総合病院はここ位しかないから重病人は何でも来るから忙しくもあるけど、それでも大学病院に比べたら全然。
あの、蹴落とし蹴落とされの世界はもうこりごり。教授なんてのも興味もないし。論文も書きたくないし、人の手伝いもしたくないし。
そんな環境から意気揚々に、いーちぬーけたっとやって来たのがここだ。
「おぉ、あの、かの有名な慶秀大学から来たなんて。とんだ物好きもいたもんだな」
初めて声をかけてきた中年の先生。
見たところ私の10近くは上だろうか。
教育係の先生そして、脳外科の医局長でもあったその人。
高城先生といった、いつもへらへら笑顔のどこか頼りなさそうな人だった。
「……よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
そう握手した指先があまりに固くて、その笑顔に似合わずしっかりした手に驚いたのを今でも覚えてる。