1%のキセキ
未結が俺を思って綿毛を飛ばしたのは、きっとそれが最初で最後だったと思う。
小学生時代、おませで移り気な未結は次々と好きな人ができた。
そしていつも俺にだけ、こっそり打ち明けてくれた。
やっちゃん、まぁくん、しゅんちゃん。
中にはなんで、こんな奴がいいんだろうっていうのもいた。
「もー、なんで飛ばせないんだろう」
帰り道、2人ランドセルを背負って歩く。
未結の片手にはタンポポ。
また、例の占いをするも失敗して、「しゅんちゃん……」と想い人の名前を呟く。
しゅんちゃんとはクラスのお調子者で、正直俺は苦手な男子だった。
「そうちゃん」
そう言われてタンポポを渡され、いつものように残った綿毛を飛ばす。
「これってさ、人にやってもらったら意味ないんじゃないの?そもそも一度に飛ばせないとだめだって自分で言って……」
「細かいことはいいのっ。当たってるといいなー」
矛盾を指摘するも、全く聞き耳もたず。未結の顔は恋する乙女そのもの。
顔を少し傾けて、両手を胸の前で組み物思いにふける。
未結はいつも都合良く、前向きに捉えるくせがあった。
そして自分で飛ばせなくても、俺が吹いて全部飛ばしてやると、単純な未結はたちまち笑顔になった。
この占いのやり方がどうこう、この子が笑顔になれるのなら、何度だって綿毛を吹いてやろう。
たとえ、未結が自分じゃない誰かを想っていても。
その時、笑顔になる未結を見て幼いながらにそう思ったのを覚えてる。
中学へ上がると、今度は野球部のこうちゃんを好きになった。
「ねぇ、こうちゃんの好きなタイプ聞いといて」
「自分で聞けばいいじゃん」
「お願いっ」
こうちゃんという奴と俺は運悪く同じクラスで、色々協力してやった。
そいつはしゅんちゃん以上にお調子者で、またしても俺の苦手な類だった。
だけど未結の頼みであれば断ることはできず、結局俺の協力もあり、2人は付き合うことになったのだが、後に別れたということを噂で聞いた。
その頃からだろうか、皆の前で未結が俺をそうちゃんと呼ばなくなったのは。
そしてある事をきっかけに、俺と未結の間には決定的な深い溝ができてしまうことに。
次第に未結とは疎遠になっていったのだった。
未結が最後に綿毛を飛ばしたのは、互いに別々の高校に進学した頃、不意に一緒になった帰り道でのことだった。
「なんで、だめなんだろう。私、最後まで飛ばせたことないんだよね」
そう言って、ふーっと息を吹きかける。
飛んでいく白い綿毛。
幼い頃はこりずによくやっていたが、数年振りのたんぽぽ占い。
未結が、初めて一度で全部飛ばせたところを見た。
「おぉできた! 見て見てっ」
そう言って幼い頃のように目をキラキラさせ、はげたタンポポを俺に見せつける。
それはもう、俺の手なんて借りなくても大丈夫と言われたようだった。
自分でもう叶えられると言われているようで、なんとなく物悲しく感じた。