1%のキセキ




ふと時計を見るともそろそろ、長針が1時を指すところ。

今日は脳外カンファだったことを思い出し、部長を急かした。
カンファレンスとはいえ最終的な判断を下すこの人が出なくては話にならない。


「部長、そろそろ行かないと」

その言葉に時計を見た部長が慌てて、席を立つ。

「おぉ、そうだな」


トレーを持って席を立とうとしたところ、部長が桐山に声をかけた。


「桐山、TIAの患者1人病棟に入れてるから先に病棟回っといてくれないか」

「はい」


忙しい仕事の合間、カンファレンスに皆揃うことは珍しい。
だけど比較的若手の私と宗祐は勉強のためにと、出席できるよう計らってくれていた。

なのに今あえて宗祐を残すなんて……。
もしかして部長なりに気を遣ったのかな。

でも、


「2人にしちゃって大丈夫でしたかね?」


あの微妙な雰囲気の中、2人残してきたことに少し心配していた。

2人とも大人だし、職場で表立って言い争うようなことはしないと思うけど。


「少し話た方がいい、あいつも言いたいことがありそうだったから」

「あいつって黒瀬の方ですか」

「あぁ、表面上は何でもないように取り繕ってたけどな」

「お優しいんですね」


くすっと笑う。
ちらっと横に並ぶ彼の横顔を見ると、そこには上司の顔をした彼がいた。

ちょっと抜けてるけど、時折やっぱり大人なんだなって実感する。

まずいな、職場だっていうのに不意にときめいてしまう。

家だったら、こういう時その頬にキスができるのに。



「今夜、何が食べたいですか?」

「鶏以外」

さっき鶏を嫌という程食べさせられたのを根に持っているのか、きっぱりそう言った。

そんな部長がおかしくて、思わず笑ってしまう。
もちろん、昼のメインのおかずと同じ食材は使わないつもりでいたのに。





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