1%のキセキ
それは初めての夜勤当直の日だった。
余裕ぶっこいていたら、患者さんが急変したと看護師から一報が入ったのだ。
すぐ駆けつけると、すでにその患者さんの周りには、救急カート、モニター、レスピ、それら全てがどんな指示が出てもすぐ対応できるようスタンバイされてあった。
私はというと、まっさらな荒野に一人取り残されたような気持ちだった。
大学病院だったらすぐに何人かの医者が集まるのに。
ここでは一人しかいない。
どうしよう、もう一人いる当直を起こそうか。
その時ここにきて初めて弱気になっていた。
大学病院でひたすら知識を詰め込んできた私は全く現場慣れしておらず、急変時の対応なんてほとんど経験したことがなかったのだ。
患者さんを前にして私は何もすることができず、茫然と立ち尽くしていた。
「先生っ!」
そんな私を大きな声で呼ぶ看護師。
煩く鳴り始めたアラーム音。
「レート伸びてきました……っ」
私を見かねて、指示を出さずとも動き出す看護師達。
「板入れて!」
そう言って一人の看護師が心臓マッサージを始める。
「先生、ボスミン吸いますっ、いいですね!?」
そう言われるも完全にフリーズした頭では答えられない。
私の返答を待てず、リーダー格の看護師が薬液の入ったシリンジをルートに接続した。
手が震えているのが分かった。
彼女の後輩が泣きそうな顔で、先輩と呼び止める。
そう、これは医師から指示があって初めて看護師ができる行為。
医師の指示なしにこんなことをしては、最悪免許剥奪だってありえる。
それなのに、私は声が出なかった。
私は泣きながらその場にしゃがみ込んだ。
「ボスミン1A、ワンショット」
「高城先生……っ」
あの時の看護師達の顔はまるで、待ち望んでいたヒーローでもやって来たかのようだった。
颯爽と現れた高城先生は私の変わりに次から次へと指示を出していった。