1%のキセキ
後から聞くと私の最初の夜勤当直だから、自分も病院に泊まっていたとのことだった。
きっとプライドの高い私に救急対応の経験を聞くのは気が引けたんだろう。
そして私も普段あれだけ見栄をはっていて、ありのままの事実なんて言えなかっただろう。
それらを全て配慮して彼は一晩泊まっていてくれたのだ。
なんとか一段落ついて、先生の後を追って医局へ戻る。
肩を落とした私に先生はコーヒーを入れてくれた。
情けなくて目も合わせられない私に、先生は静かに話し始めた。
「ここの地域はさ、周りに大きな病院がないから、どうしてもここに色んな患者が集中する。色んな病態の患者が来るし、重病者でもなんでもござれだ、それでもうちでなんとか対応していかなきゃならない」
先生の優しくてちょっと低い声が、心に直接入ってくるようだった。
「対応できないとならば、ヘリでもっと大きな市に飛ばさなきゃならなくなる。まぁ、うちでは対応できない重病者だ。考えれば分かると思うけど、ヘリで移送している間に患者は死ぬ。だからなるべくここで全て対応してやりたい」
「……はい」
私はそれに静かに答えた。
「それがさ、何を意味するか分かるか?大学病院とは違って、責任の大小関わらず看護師の手でなんでもやらされるってことだ。確かに、大学病院と比べたら知識では及ばないかもしれない。だけど、ここの看護師は皆自分で考えて動ける子達だ」
さっきの看護師達を思い出す……。
そうだ皆私より全然動けていた。
「君はさっき何ができた?病院は医者だけで成り立ってるんじゃないぞ」
……協調性を持って働け、あの言葉が今日ほど身に染みた日はなかった。