1%のキセキ
同棲するようになって、家を出てからは会うのは久しぶりだ。
私は玄関にひょこっと顔を出した。
「晶子さん、お久しぶりです」
「あっらー、未結ちゃん、久しぶりーっ。結婚するって聞いてから全然帰って来ないから寂しかったのよー」
そう言いながらぎゅっと抱きしめられる。
いつも上品ないでたちなのに全然気取らない、相変わらず気さくな人だ。
「この前まであんなに小さかった未結ちゃんが、もう結婚だなんてねー。たまには、おばちゃんにも会いに来てね。良かったら彼も一緒に」
「はい、もちろんです」
晶子さんから感慨深く顔を眺められ、笑顔でそう答える。
「今日はね、その彼と一緒に来てるのよ」
お母さんがそんな私達に、口を挟んで言う。
今までの話し声が彼にも聞こえていたのか、彼も玄関まで出て来てくれた。
「初めまして、杉山裕樹といいます」
そう言って頭を下げる。
「あらあら、わざわざすいません。こちらこそ初めまして、すぐ隣に住んでる桐山晶子といいます」
と、あっこちゃんが自己紹介したところで、うちのお母さんがあ、と思いついたように提案した。
「ねぇねぇ、うちお昼ご飯これからなの。良かったらさ一緒に食べて行かない?」
「それがね、今珍しく宗佑が帰って来てて……」
「えぇっ!」
思わず漏れた私の声は、それよりも更に大きな声を出した妹と母の声によってかき消された。
「えっ、嘘でしょっ?」
話を聞きつけた真結がパタパタと玄関まで駆けつける。母もなんだかそわそわし始めた。
2人とも別に、ここにそうちゃんがいる訳じゃないのに、もう目もあてられない慌てよう。
そしてとんでもないことを言い出した。
「じゃ、久しぶりに皆でご飯食べましょうよっ。未結も宗佑君に会うの久しぶりでしょ?」
「あ、……うん」
彼の手前、何もやましいことはないのに、ついこの前病院で会ったとは言えず……。
隠すつもりもないのに、気付いたらそう答えていた。