1%のキセキ
ふとジーンズのポケットに入っていた携帯が鳴った。
その相手は、栞だった。
『今日は何してるの?』
「今、実家に帰ってるところだよ」
『じゃ、会うのは難しそうだね』
「ごめん、また今度都合合わせるよ」
そう言って断ろうとした時、いつの間にか隣には神出鬼没な母親が。
「誰と喋ってるの?まさか彼女?」
俺の携帯に耳を寄せて、盗み聞きして来ようとする。
すかさず手で電話口を塞いで、うんざりしながら言う。
「……声でけぇよ」
「ちょっと変わって」
「はぁ?」
いきなり何を言い出すんだと思っていたら、まんまと携帯を奪われてしまった。
「初めまして、宗佑の母ですー」
『こ、こんにちは。宗祐くんのお友達の栞といいます』
「……ほら、やっぱり女の子じゃないっ」
栞の声を聞いた母親が、一瞬携帯を離して小言でにんまりしながら言う。
「あのね、これからうちで食事会するんですけど、良かったらいらっしゃいませんか?食事会って言っても近所の友人を招いたささやかなものなんですけどね」
「ばか、やめろって」
何、勝手に誘ってんだよ。
携帯を奪おうとするもかわされてしまい、奴は飄々と栞と話し続ける。
「本当?じゃ今宗佑に迎えに行かせるからっ」
そう言って電話を切ってしまった。
特大のため息をつきながらうなだれる俺に、母親はそれはそれは嬉しそうに満面の笑みを浮かべて言う。
「来るって」
まるで語尾にハートマークでも付きそうだ。
人の気も知らないで。
「何やってんだよ……」
「いいじゃなーい、少しでも人数多い方が楽しいでしょ?」
「そもそも、食事会って何?」
「未結ちゃんが今婚約者と家に来てるから、久しぶりに皆で一緒にご飯食べようってことになったのよ」
「はぁ?」
……冗談じゃない。
なんでわざわざ、婚約者と未結と顔を合わせて飯食わなきゃいけないんだ。
「ほら、さっさとその子迎えに行って来て。私はこれから料理で忙しくなるんだから」
そう言いながら奴は階段を駆け下り、キッチンへ向かう
「……あぁもういいよ、しょうがないからその子とどっか外で食ってくる」