1%のキセキ
すると安生は諦めたのか、私を机の下に隠して鍵を開けた。
……どうしよう、この隙に逃げてしまいたい。
「すいません脳外の患者で、どうも全身状態が悪くてちょっと危ない人がいて……、一度内科で診て欲しいのですが」
「……分かった今行く」
「俺ちょっと方針どうするか高城先生に相談してくるんで」
安生がいなくなった医局、私はゆっくり机の下から出ようとするとそこには彼がいた。
「……やっぱりいた。今のうちに帰ったら?てか、あのおっさんに関わるのもうやめろよ」
大げさだけど、その時彼が命の恩人のようにさえ思えた。ほっとして、今になってようやく震えはじめる体。
「……っ」
「ろくなことがない……って、大丈夫か?」
人前で泣いたのは初めてだった。
物心ついた頃から、親の前だって泣き顔は見せなかったのに。
この一件以降、彼を見かける度に胸が締め付けられるようになった。
それが初めての感覚だったから気付かなかったが、きっと恋と呼ばれるものだったんだと思う。
しかし遅すぎる初恋は、無情だった。
彼には長年想っている相手がいたのだ。
その相手の彼女に会ってからというものの、どうしたら彼女に近づけるか考えるようになった。
まず手始めに頬の一番高いところに、うっすらサーモンピンクのチークをつけてみた。
あの子の血色の良いピンク色の頬のように。
そして、少しでも自然に笑えるようになるよう練習してみた。
鏡を見ながら練習したけど、私の笑顔って驚く位すごくぎこちなかった。
私はいつもこんな笑い方をしていたのだろうか。
宗佑君が想いを寄せるあの子は、私の幸せの象徴だ。
あの子のように自然に笑えるようになりたい。
あの子のように宗佑君に想ってもらえるようになりたい。
……あの子になりたい。
あの子になれば全てが手に入る、そんな気さえした。
でも、分かってる。
結局はこんなことしたって、あの子になれる訳じゃないってことは。
宗佑君に好きになってもらえる訳じゃないっていうことも。