1%のキセキ
しかし、今の奥さんには、そんな母親の声も届いていなかった。
あまりのショックに受け入れられていないようだった。
それもそうだ、普通にピンピンしていた人間が突然倒れて死ぬって言われても納得いかないだろう。
だけど、くも膜下出血とはそういう病気。
残酷なようだけどこれが現実なのだ。
「……残念ながらもう手の施しようがありません。くも膜下出血というのは、」
「あの、さっきから淡々と説明されてますけど……っ。朝まで普通に元気だった人が、突然倒れて、もう手遅れです、死にますって言われても信じられないんですっ」
奥さんの体はふるふる震え出し、ついに涙が溢れ頬を伝った。
そして振り絞るかのように出した声でこう続けた。
「先生にはそんな気持ちわからないでしょうっ?」
奥さんの涙はとめどなく溢れ、両手で顔を覆うと懇願した。
「なんとかなりませんか。お願いします、達也を助けてください……っ」
悲痛な叫びが部屋に響く
私は何と声をかければいいのか分からず、ただその場で泣き崩れる彼女の背にそっと手を置いた。
皆が沈黙し、静まり返った部屋。
奥さんと母親の泣く声だけが際立っていた。
すると、しばらく口を閉ざしていた高城先生が諭すように話し始めた。
「……実を言うと、うちの女房にもこの同じ病気で先立たれました」
………っ!?
それは、衝撃的な告白。
今の今まで、奥さんは健在だと思っていたから。
どんな顔をして話しているのか、その表情を窺うことさえ怖くて、下を向きながら耳を傾けた。
「突然のことで死に目にさえ会うことができませんでした。彼女は、病院に到着した頃にはもう冷たくなっていたんです」