1%のキセキ
「この病気は運ばれる救急車で亡くなることが多いんです。だけど達也さんは病院に着くまで持ちこたえた」
「正直、頭の写真を見る限り、いつ亡くなってもおかしくない状況です。むしろ、病院に着くまで持ちこたえたなんて奇跡に近い位」
「きっと達也さんは、由佳さんが来るのを待っていたんではないでしょうか」
ぽつり、ぽつり、優しく奥さんを労わるように話す高城先生。
「由香さん、これが本当に最後なんです。できるだけ彼の傍にいてあげてください」
患者さんをICUへ送った後、看護師に指示を出して医局へ戻った。
その途中の廊下で、彼はつぶやくように漏らした。
「……辛いよな、相手に先立たれるのは。受け入れられないのも無理はない」
内容が内容なだけに、適当な返答が思いつかず、ろくに返事をすることもできなかった。
「さっきの話は内緒な」
そんな私に、いつもの飄々とした様子で言う彼の左手の薬指には指輪がはまっていた。
ちくりと胸が痛む。
きっと、彼はまだ亡くなられた奥さんが忘れられないのだろう。
「じゃ、当直よろしくな」
「はい……」
精一杯の声を振り絞って返事をし、頭を下げた。
どうしよう、これから夜勤だってのに。
想い人のこんな思いもよらない過去を知ってしまうなんて。
だからと言って、患者さんは待っちゃくれない。
夜間救急だってのに、次から次へとひっきりなしにやって来た。
次の患者は、転んで頭をぶつけたという若い女の子。
その割にはうっすら何か所か痣があるし、一度転んだだけとはどうも思えない。
そしてただ転んだという割には、頭の傷が大きすぎる。
更に傷の場所も不自然だ。よく患者が転んでくるが、普通頭の真後ろに傷ができることはそうそうない。
飲酒も睡眠薬とかも飲んでいなかったようだし。
どう転んだらこんな場所にこんな傷ができるのか。
若い女の子とだけあって心配になってしまう。
「CT撮って」
そのまま検査室へ送ると、見知った外来の看護師がこっそり言った。
「あの、この方、前外来に来てた桐山先生の幼馴染です……っ」