1%のキセキ
その日、もやもやとした不安は仕事が終わって家に帰ってからも消えなかった。
どうしても頭から未結とあいつの後ろ姿が離れられない。
本当に2人で帰してしまって良かったのだろうか。
実家へ連絡し、奴ではなく家族に迎えに来てもらうべきだったか。
それとも無理矢理にでも入院させて、強制的に距離を置かせるべきだったか。
どちらにしても、未結はそれを望まなかったろうが。
それにここからは、2人の問題だ。
あいつだってもう大人だし、ものごとの判断だって、人に言われずとも自分でできるだろう。
そう、もう小さい頃の未結とは違うんだ。
まるで自分に言い聞かせるように、強引に自分を納得させる。
さっさと風呂に入って寝ようとソファーから立ち上がったところ、インターホンが鳴った。
そのモニターには、まさかの未結の姿があった。
驚いてすぐさまエレベーターで降りる。
「こんな時間にどうした?てか、なんで俺んち分かったの?」
「ごめん、おばさんに聞いて。あの、昨日お世話になったから……」
そう言って差し出してきたのは、俺の好きな洋菓子屋のチーズレモンパイ。
しかし、なんでまたこんな時間に……。
しかもわざわざ届けに来るなんて。
「じゃ……」
何も言わない俺にいたたまれなくなったのか、そそくさと帰ろうとする未結。
俺はすかさずその冷たい手をとった。
「待てよ、本当は別の用があって来たんじゃないのか」
俺の目を不安げにじっと見上げる。
「……ここで言いづらいなら、あがっていけば?」
そう言って家へあがらせた。
エレベーターの中から、家にあがってからもしばらく要件を話さない未結に居心地の悪さが続く。
俺は未結にカフェオレを出してやり、その正面に座った。
いただきます、小さくそう言ってマグカップに口をつける彼女。
静か過ぎて、彼女の飲み込む音さえ際立って聞こえた。