1%のキセキ
「……そんなに言いづらい話なのか?」
「ご、ごめん。なんか、言い出しにくくて……。あの実は、まだ実家に帰れてなくて……」
「え?じゃあ今日どうしてたんだよ、まさかあいつとずっと一緒にいたんじゃないよな?」
「う、ううん、結局ずっと街中ふらふらしてたの……っ。どうしても帰りづらくてね、友達にも招待状送っちゃってるから言えないし。あ、あの頼る人がいなくて」
……なるほど、つまり。
泊めて欲しいということなのか。
こんな時間になるまでずっと迷っていたのか。
そんなに手を冷たくさせて鼻の頭が赤くなるまで。
「ごめん、本当ごめん。困るよね。彼女いるのに」
気まずそうに、すっと立ち上がる未結。
「ごめん、帰る……っ」
そう言う彼女に声をかける。
「どこに?」
「……っ」
「とりあえずもう遅いから、ここに一晩泊まれ。明日は藤沢に頼んでみるから」
すると、バツの悪そうな顔をしながら頭を下げた。
「ごめんね、そうちゃん。ありがとう」
「いずれにしても家族にはちゃんと言えよ、じゃないと別れられないぞ」
「……」
返答がない未結に不安になる。
「まさか別れるつもりないのか?」
「……彼ね、結婚すれば治ると思うんだ」
「はぁ?バカじゃないのか。治る訳ないだろっ」
それで反対されるから、家に帰れないってことか。
バカバカしい。
そうまでしてあいつのことが好きなのか。
自分を殴る男だぞ。
そんな奴のどこがいいんだ。
しょうもない奴とばっか付き合ってきたのは知ってるが、その中でもあいつは最底辺の奴だよ。
とまくしたててやりたいところをぐっとこらえる。
未結が病院に来た時、直接こいつからはろくに話を聞いていなかったが、未だにこんなにとんちんかんな奴だとは思わなかった。
2人の問題だから。
こいつももう大人なんだし、こいつの判断に任せようと思っていた自分が間違いだった。
マグカップを両手に持ちながら、ふーふーする奴を横目に見る。
……そんなにあいつのことが好きなのか。
計らずともそう思い知らされ、ずきっと胸が痛んだ。