1%のキセキ
彼の帰りを待ちながら、キッチンで野菜を刻む。
今日は彼の好きな鍋にした。
きっと2人で鍋を囲めば、何事もなかったかのようにまた以前のように戻れる。
そんなことを思いながら下準備をしていると、不意にインターホンが鳴った。
扉を開けると、そこにはそうちゃんの姿。
びっくりして思わず口が開いたままになってしまう。
「はぁ、まさか本当に戻ってたなんてな」
ため息をつきながら、呆れ顔のそうちゃん。
どうしてここが分かったんだろう、そんな顔をしていた私にカルテの住所を見て来たと教えてくれた。
どうしよう、今一番会いたくなかった人物。
そして彼に見られたら、どんな誤解を招いてまた怒られるか分からない。
とりあえず、絶対に家に招き入れてはいけない。
なんとかしてここで帰ってもらわないと、そう気を引き締めた。
「ちゃんと事情話して、家に帰れよ」
そうちゃんはいつもクールで、自分から人に干渉するような人じゃなかったのに。
なのにわざわざ、家まで来るなんて。
……ただの幼馴染なのに。
「心配してくれてありがとう。でも私大丈夫だから、もう子どもじゃないし。ちゃんと自分で結婚相手も決められるから」
そう言って無理矢理扉を閉めようとすると、ぐいっとこじ開けられる。
本当にどうしちゃったの、さっさと諦めて帰ってよ、なんで今更こんなに心配してくれるの……?
昔私にしたことのつぐないのつもり?
「あぁ、もうこの分からず屋。お前が言えないなら俺が家族に言おうか?お前が暴力ふるわれてたなんて知ったら、お前の母親も妹も泣くだろうな」
「お、脅すの……っ?」
「あぁ、お前とあいつを別れさせるためならなんだってやってやるよ」
そうちゃんの真剣な顔を見て、息を飲む。
冗談じゃない、本気で言っていることが分かった。
そしてそうちゃんは強引に家に入り込んだ。
「あいつは?仕事?」
リビングで彼の姿を探すように周りを見渡す。
どうしよう、もうすぐ彼が帰ってくる時間だ。
彼が帰ってくる前に帰ってもらわないと。