1%のキセキ



彼の帰りを待ちながら、キッチンで野菜を刻む。
今日は彼の好きな鍋にした。
きっと2人で鍋を囲めば、何事もなかったかのようにまた以前のように戻れる。

そんなことを思いながら下準備をしていると、不意にインターホンが鳴った。


扉を開けると、そこにはそうちゃんの姿。
びっくりして思わず口が開いたままになってしまう。


「はぁ、まさか本当に戻ってたなんてな」

ため息をつきながら、呆れ顔のそうちゃん。
どうしてここが分かったんだろう、そんな顔をしていた私にカルテの住所を見て来たと教えてくれた。

どうしよう、今一番会いたくなかった人物。

そして彼に見られたら、どんな誤解を招いてまた怒られるか分からない。

とりあえず、絶対に家に招き入れてはいけない。
なんとかしてここで帰ってもらわないと、そう気を引き締めた。


「ちゃんと事情話して、家に帰れよ」

そうちゃんはいつもクールで、自分から人に干渉するような人じゃなかったのに。
なのにわざわざ、家まで来るなんて。
……ただの幼馴染なのに。


「心配してくれてありがとう。でも私大丈夫だから、もう子どもじゃないし。ちゃんと自分で結婚相手も決められるから」

そう言って無理矢理扉を閉めようとすると、ぐいっとこじ開けられる。

本当にどうしちゃったの、さっさと諦めて帰ってよ、なんで今更こんなに心配してくれるの……?

昔私にしたことのつぐないのつもり?


「あぁ、もうこの分からず屋。お前が言えないなら俺が家族に言おうか?お前が暴力ふるわれてたなんて知ったら、お前の母親も妹も泣くだろうな」

「お、脅すの……っ?」

「あぁ、お前とあいつを別れさせるためならなんだってやってやるよ」

そうちゃんの真剣な顔を見て、息を飲む。
冗談じゃない、本気で言っていることが分かった。

そしてそうちゃんは強引に家に入り込んだ。


「あいつは?仕事?」

リビングで彼の姿を探すように周りを見渡す。

どうしよう、もうすぐ彼が帰ってくる時間だ。
彼が帰ってくる前に帰ってもらわないと。



< 72 / 231 >

この作品をシェア

pagetop