1%のキセキ



冷蔵庫の中を眺めながら、作れそうなものを考える。

「飯準備するけど、食べれそうか?」

「あ、いえ……」

すると横目にそらしながら、首を静かに横に振った。

……食欲なんてないか。
それに今日は胃や食道に負担かけてるから休ませておいた方が良さそうだ。

まぁ、これ位なら……。


「お粥……?」

そう思って作って出したのは卵粥。
きょとんとしながら俺の顔とお粥を交互に見る。


「残してもいいから」

すると奴は顔の前で両手を合わせて、静かにいただきますと言うとレンゲでお粥をすくった。
良かった、少しでも食べれそうで。


「……おいしい」

そう言うと、うっすら微笑んだ。
こんな安らかな表情は、今日初めて。

というか以前からドぎついイメージしかなかった彼女に、こんな表情ができるなんて少し驚いた。

良かった、そんな顔できるんじゃないか。

いつもそうやって体の力を抜いて笑っていたら可愛いのに。

少しずつ元気になっていく彼女の傍らで、適当に作った野菜炒めを食べながらそう思った。


だけど、ここで彼女がどれだけ元気になろうが、根本的な解決にはならない。

またあいつの手によって簡単に彼女は傷ついて、落ち込むんだろう。
そしてきっとまた薬を飲むに違いない。

……きっともう常習化して依存してるんだろう。


彼女の事情に首を突っ込む気なんてさらさらない、そう思っていたのに。

彼女は宗佑を好きだった女だ。
俺とは院内で顔を合わせれば挨拶をする程度の顔見知り。

しかも、俺が面白がって一方的に声をかけていただけ。
あの苦虫を噛み潰したような苦々しい顔を思い出す限り、それはそれは嫌われていらことであろう。

そう、そこまで深入りするような仲じゃない。
きっと彼女もそんなこと望んでない。

……でもこんな笑顔を見てしまうと、どうにかしてやれないかと思ってしまうんだ。

一体なんで、あんなことに……。
運ばれてきた時のあの辛そうな泣き顔を思い出す。

何をしたら、あんなに薬を飲ませるまで追い込むことができるんだ。
一体、あいつはこの子に何をしたんだ。

そう考え始めるとあいつが腹立たしくてしょうがなかった。


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