ひまわり
「永峰さん!」

後ろから突然声をかけられる。
振り向くと制服姿の森くんがいた。
大抵、この時間にバスケ部の人を見かけるとユニフォームだから新鮮だ。

「森くん…。部活お疲れさまです。」

声をかけられたから、とりあえず挨拶。
会わずに帰れればなぁ~なんて思っていたけど、そうはいかなかった。

「永峰さんもお疲れさま。今日は何作ったの?」

キラキラした笑顔の森くん。
これはすごい楽しみにしていた?

チラッと千沙ちゃんと愛実に視線を送る。
見守りの態勢に入っている二人は、私の視線に気づいても笑って誤魔化す。

「今日はマシュマロを作ったんだ。」

「マシュマロって作れんの!?」

「うん。卵白とゼラチンで簡単に作れるよ。」

「そうなんだー。知らなかった。」

会話をしながら、感じるのは森くんからの期待の目。
・・・作ったお菓子あげるだけなんだから、いっか

「これなんだけど良ければ──」

「伸也、悪い!永峰のお菓子は俺が先約なんだよね♪」

私の言葉と重なるように聞こえた声。
鞄から取り出した、マシュマロ入りの袋を受け取ったのは・・・遼くんだった。

「は!?俺も食べたいんだけど…。」

少し怒ったように、森くんが遼くんに噛みついていた。
それでも笑顔を絶やさない遼くん。
私はどうすることも出来ずに、ただ黙って二人のやり取りを見守る。

「やだよ!毎週木曜日はこのお菓子を楽しみに、練習を頑張ってるんだからさ!」

「だからって…独り占めかよ。」

森くんと向き合っていて、私に背を向けていた遼くん。
急にくるりと向きを変えて、こちらを見た。

「…っというわけで、これは俺が貰うけど良い?」

満面の笑みで言われて・・・

「う…うん。どうぞ。」

・・・としか言葉が出てこなかった。
私の返事を聞いた遼くんは、森くんの肩に腕を回した。

「じゃあ俺らは行くわ。明日の部活について話があるんだよね。伸也行くぞ!」

「は!?ちょ…っ。」

半ば強引に遼くんが森くんを連れて、暗くなっている教室の方へと歩いて行ってしまった。
二人がいなくなって、少し張り詰めていた空気が和らぐ。
そばで見ていた愛実と千沙ちゃん。
二人もホッとした様な表情をしていた。

「…帰ろっか…。」

ポツリと千沙ちゃんが呟く。
その言葉に頷き、三人で歩き出した。

今日は真っ直ぐ帰ろう──・・・
< 28 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop