ひまわり
───ジリジリジリジリジリ

突然、大きな音が鳴り響き始めた。
どよっと動揺する声がロビーを埋め尽くした。
私はどうすればいいのかわからなくなった。

「火事です!!落ち着いて係りの指示に従って下さい!!」

声を張り上げて、お客さんを誘導し始める人達。
みんな慌てながらも、係りの人が誘導する方へと進み始める。
ただ・・・身の危険を感じているせいで、みんな我先に進もうと、パニック状態であった。
私もすぐに誘導される方へと進もうとしたはず・・・でも、自分が人形を持っていないことに気づいてしまった。
私はさっき行ったトイレへと向かった。

お父さんが取ってくれた大切な人形。
自分が入った個室の中で見つけて、すぐにロビーに引き返した。

でも遅かった。
トイレを出ると、辺り一面真っ白な煙。
どこが売店で、どこがエスカレーターか・・・全くわからなかった。

怖くて怖くて・・・私はトイレの中で動けなくなり、意識を失った。

お父さんの取ってくれた人形を力一杯抱きしめながら───













───その後、私は無事に救出された

気を失っていた私を、救助隊の人が救い出してくれた。
でも、たくさんの煙を吸い込んでいた私は・・・すぐに意識が戻らなかった。


意識が戻ったのは火事の日から一週間後。
お父さんとお母さん、心配で会いに来てくれていたおばあちゃん達はみんな、私の意識が戻って喜んだ。

・・・けれど・・・

目覚めた私は全ての記憶を失っていた。
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