ひまわり
私は長々と自分の過去を遼くんに話した。
遼くんは何も口出しせずに、黙って私の話を聞いてくれていた。

「全部忘れたっていっても、自分の名前と日常生活に必要なことは覚えてたの。勉強したことも覚えてたから、苦労はあんまりしなかったよ。」

忘れていたのは自分の過去について。
どこで育った、何を好きだった、誰と遊んだ・・・そういうことは何も覚えていない。
・・・お父さんとお母さんのこともわからなかった。
ただ自分が【永峰結麻】であるということしか覚えていなかった。

「それにね。いじめられて不登校だったし、新しい場所で一から始めようって、両親が引っ越しを決めてくれたの。転校もしたから友達のこと覚えていなくても大丈夫だった。」

今の家はお母さんの実家の近く。
両親と祖父母に支えられながら、私は新しい環境で頑張り始めた。

「過去を無理矢理思い出そうとすると、すっごい頭痛が起きるんだよね。だから、今日のことは誰のせいでもないし、私は大丈夫!心配かけてごめんね。」

にっこりと笑って、私は話すのを止めた。
シーンと静まり返る室内。
遼くんは少しうつむいたまま、遠慮がちに声を出した。

「…覚えてないんだよね?何でいじめられてたとか色々知ってるの?」

「お母さんに聞いたのと自分の日記で知ったの。一日三行とかだけど、毎日日記を書いてたみたいだから自分のことを知れたの。」

「火事の当日のことは…?」

「火事が放火だったから、監視カメラで色々調べたんだって。それで警察の人が、私の逃げ遅れた理由を両親に教えてくれたって。」

「そっか…。」

また静まり返る室内。
きっと遼くんはなんて言えばいいのかわからないんだと思う。
私だって、友達が急に【自分は過去を覚えていないんだ】って言ったら、戸惑うと思う。

ぎしっとベッドをきしませながら、私は起き上がる。
うつむく遼くんの肩をポンッと叩いた。

「そんな暗くならないで!私は全然平気なんだから!今が楽しいから、思い出したいとか思わないの。…遼くんのおかげでもあるんだよ♪」

素直な私の気持ち。
今の学校生活、友達関係、全部が楽しいって思うから、過去を失っていることを悲しいなんて思わない。
明るく元気に過ごせていける。
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