私と彼の恋愛理論
今日は月が綺麗な夜だった。

だからか、窓の外を眺めながら少し感傷に浸ってしまったらしい。

今更、昔のことを思い出して何になるのだろう。

過去から得られるものなど、あの苦い教訓しかないというのに。

僕は過去を振り切るように、目の前の彼女に視線を集中させた。


「ねえ、少し前から思っていたことだけど。」

僕はデザートを食べながら彼女に切り出した。


「僕たちなら、恋人になっても、うまくいくと思うんだ。」

そこまで話して、僕は無言で「どうかな?」と微笑みかける。

彼女は眼を少しだけ大きく開いて、少し驚いた表情をしたけれど、すぐに目を伏せて悲しそうな顔をした。


それだけで、わかってしまった。


彼女は僕をそんな風に求めてはいなかったことを。

しかし、次の彼女の反応は予想とは大きく異なるものだった。

「勘違いだったら、すみません。」

彼女の視線が僕をしっかりとらえる。

嫌な予感がした。

これから彼女が僕に告げようとしていることは、僕が逃げたしたくなるようなものなのかもしれない。

だけど、彼女は僕を逃がさない。強い意志をもった目。

あの日、僕の手を押し返した女の目と同じだった。

「皆川さんには。」

彼女の口がゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

覚悟を決めた僕を追いつめるように。


「たぶん忘れられない方がいらっしゃるんじゃないですか?」


その時、僕の頭に浮かんだのはあの白いガーベラだった。
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