私と彼の恋愛理論
何分くらい経ったのか。

僕は彼女の言葉をしばらく無言で受け止めていた。

沈黙は肯定と同義とはよく言ったもので、僕には彼女の言葉を否定する事はできなかった。


「どうしてそう思うの?」

僕はようやく口を開く。

質問に質問で返してしまったことは、この際許して欲しい。

「何となく分かるんです。ほら、皆川さんと私って似ているところがあるでしょう?」

感性の一致が裏目に出たのか。

僕はもう苦笑するしかなかった。

「そうか。君には隠せないな。」

「やっぱり。皆川さんはよく私に、君なら分かってくれると思ったって仰るじゃないですか。」

「君とは感性が似ているからね。」

「でも、そう言う皆川さんの顔が切なそうで。きっと、本当に分かってもらいたかった方がいるんじゃないかと。」

「そうなのかもしれないな。自分では、そんな感情はとっくに捨てたと思っていたけど。」

全てを認めると、思っていたより心が軽くなった。

「捨てられませんよ。そう簡単には。」

彼女はそう言って顔を歪めた。

おそらく、恋人のことを思い浮かべているのだろう。

しばらく連絡を取っていないと聞いたが、離れてみてもやはり彼のことが頭から消えないのだろう。

その苦しそうな顔が、二年前の自分と重なる。

愛していても、届かない思い。


その表情に動かされたのか、僕は自然と話し始めていた。

「僕の昔話に少し付き合ってくれるかい?」
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