私と彼の恋愛理論
なぜ彼女に話そうと思ったのかは、よく分からない。

僕の昔の恋の話。

失敗したプロポーズの話。

そこから得た教訓の話。


この情けない話をもし誰かにするとするならば、タイミングは今、相手は彼女しかいないと思った。

ひょっとして僕は誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

この2年間ずっと。



窓から見える月は相変わらず綺麗で、僕は淡々と話し続けた。

話している僕は、不思議と恋人との楽しかった日々のあたたかさを思い出していた。

ロンドンで過ごした、冷え切った二年間に対しても、それほどの痛みを感じなかった。


一通り話し終えると、彼女は目に涙を溜めていた。

「泣きたくなるほど、情けない話だった?」

僕は微笑んで、ハンカチを差し出す。

「いいえ、その逆です。とてもいい話だったから。」

彼女の言葉の意味が理解できずに、僕は止まった。

「その方は、本当に皆川さんのことを愛していたんですね。」

しかし、彼女の口が次に紡ぎだした言葉はさらに難解だった。

僕のことを愛していた?

なぜ、そう思う?

プロポーズも断られたというのに。

僕の頭の中はややパニックになった。



唖然とする僕に、目の前の彼女はさらに続ける。

「シェークスピアは愛せない。私には、これ以上ないくらいの愛の告白に聞こえます。」

そう言って彼女は微笑んだ。
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