私と彼の恋愛理論
せっかくだから、晩ご飯くらいは済ませなくては。
一人暮らしの悲しい性で、サラダを取ろうとした時、目の前に取り皿を差し出された。
「どうぞ。」
手の主を見ると、どう見ても自分より若い男の子。スーツを着ているけど、就職活動中の大学生だと言われても納得してしまいそうだ。
「どうも、ありがとう。」
私は取り皿を受け取って、黙々と食事を進めた。
「ビール、お代わり。」
「ぷっ。」
店員に追加の注文をしたところで、向かいに座っていた取り皿の彼が吹き出した。
「何?あなたも頼む?ごめんね、気が利かなくて。」
そう謝ると、彼は笑いを止めて私に話しかけてきた。
「すごいな。コンパという状況をこんなに華麗に無視する人、初めて見た。」
その言い方に、多少棘があったからか、私は思わず反論した。
「無視してないわよ。ちゃんと話も聞いてるし。」
「まったく頭には入ってなさそうだけどね。」
「まあ、それは否定しないけど…」
途中から、小声になる。
ちょうど、二つ隣に座っていた女の子の話題で盛り上がっているため、誰も私たちの会話は気にしていないだろう。
「無理矢理誘われて来た感じ?」
「まあ、そうね。遅れてきたくらいだし。」
もし、気合いが入っているなら、シフトを代わってもらうくらいのことはしただろう。
「じゃあ、適当に俺と話しながら、食事してればいいよ。そしたら、自然でしょ。」
「でも、それじゃあ、あなたが来た意味ないじゃない。せっかくだから、他の子と話して来なさいよ。」
目の前の彼は、よく見ればくっきりとした二重で甘い顔立ちをしていた。やや細身で小柄だけど、たぶんそれなりにモテるだろう。
私が親切心から掛けた言葉に、彼は少し意地悪く笑った。
「俺はいいよ。今ここに、あなた以外に気になる子いないから。」
さり気ない口説き文句。
でも、久々に聞いたそれは、私の胸をまったく揺さぶらなかった。