私と彼の恋愛理論
残りのコンパの時間は、彼と色気のない会話をしつつ、ずっとビールを飲んでいた。
最後に社交辞令のように連絡先を聞いてきた彼に、苦笑する。
「いいわよ、気を遣わなくて。うまくやり過ごせて、今日は助かった。ありがとう。」
それだけ言って、私はその場を後にした。
彼は何か言いたそうだったけど、私は待たずに歩き出す。
もう、どうせ彼には会わないだろう。
そう思っていた。
翌朝、いつものコーヒーショップに立ち寄るまでは。
「しかし、まさかいつものコーヒーショップで再会するなんてね。少しロマンチックな女の子なら、運命だと思ってそれだけで好きになっちゃうかも。」
まどかが、お弁当を食べながら続ける。
「すみませんね、冷めてる女で。」
「いや、そのクールで冷静なところが里沙の良さだけどさ。」
「それ、褒めてるの?」
「もちろん!」
裏表がない性格の、この親友は本気でそう思っていそうだから、ありがたく受け取っておく。
「だけど、コンパの前にも会ってたとは、ほんと気づかなかったわ。」
コンパの次の日、私は通勤途中にいつもの通りコーヒーショップに寄った。
図書館の最寄り駅のすぐ前にあるその店に寄るのは、すでに私の日課だった。
お昼ご飯のサンドイッチを買ってから、時間があればコーヒーを飲んでから出勤する。
コーヒー豆の焙煎と卸売りをしている会社が直営しているその店は、値段もリーズナブルで、味も良かった。
いつものように、ブレンドコーヒーのカップを持って窓側のカウンターに座る。
外を行き交う人々を眺めながらほっと一息つこうとしたその時、背後から声を掛けられた。
「おはようございます、里沙さん。」
振り返ると、そこには昨日のコンパで出会った男の子。
細身のスーツに身を包み、微笑んでいる笠岡俊介が立っていた。