私と彼の恋愛理論
やっぱり、と言いながら近づいてきた彼の説明によると、彼はこの店を経営する会社の社員で、店の入っているビルの中にオフィスがあり、度々私を見かけたことがあったらしい。
「昨日会ったときは、まさかと思ったけどね。」
コンパの帰り、最後に何か言おうとしていたのはこのことだったらしい。
「連絡先しつこく聞かなかったのは、どうせまたすぐ会えると思ったから。」
そう言って、私の驚いた顔を見ながら彼はしばらく笑っていた。
その後も、彼にはよく会った。
社員は半額になるらしく、毎朝タンブラー持参でコーヒーを買いに来る。
ご馳走するよ、と何度か言われたが、付き合ってもいない年下男に奢られる理由はないので丁重にお断りした。
そして、彼は会う度に何故か私に言い寄ってくる。
「里沙ちゃん、デートしようよ。」
いつの間にか私のことをちゃん付けで呼び。
「ビールと焼き鳥のうまい店があるんだ。」
いつの間にか私の好みを熟知し。
「この時間に会うってことは、早番?」
いつの間にか私のシフトまで分かるようになった。
そうあからさまに好意を示されると、正直悪い気はしないのだが、相手は三つも年下だ。
若いのに、私に言い寄るなんて奇特な趣味の持ち主だけど。