私と彼の恋愛理論
一度帰ってから再び駅で待ち合わせして、電車で向かった先は海浜エリア。

最近新しいリゾート会社が開発を進めている地区にある遊園地だ。

デートと言えば、いつも映画やショッピングで、大人になってから、遊園地に来たことがなかった私は、本当は少し戸惑った。

でも、私の久々に来た遊園地は予想外にわくわくして。
そして、いつの間にか俊介より楽しんでいたのは私の方だったのかもしれない。

夕方、遊園地を出て駅に向かう道の途中で、つい漏らしてしまった一言。

「帰りたくないな。」

「その言葉、俺、勝手に都合良く解釈するよ。」

そう、ニヤニヤと笑う俊介に、釘を差す。

「遊園地が楽しかったって話。」

「じゃあ、また来よう。」

そう言って彼は微笑むと、私の手をそっと握った。

「何、この手は?」

「寂しそうだったから握ってあげただけ?」

得意げに言って、より強く握りしめてくる。

私はその手を振り解かないまま歩いた。

横を向けば彼の満足そうな顔があった。
きれいな二重の瞼から伸びる睫毛は思ったより長くて、笑う度に上下に豪快に揺れた。
男の人の割には小さめの手、しっかり繋がれたそこから伝わる熱は、私を温めるのに十分だった。

ほっとするのと同時に、無性にどきどきした。

不思議な感覚。

たった一日で急に近づいた距離。

何事も慎重に冷静に行動する自分からは信じられないスピードだった。



やがて、行く先に人影が見えた。

建設中の建物の中からスーツにヘルメット姿で出てくる男性に見覚えがあった。

あっ、と思った瞬間、相手も私に気づいたらしい。

驚いた顔でお互いしばらく向かい合った。

「どうも。」

先に声を掛けてきたのは向こうだった。

私は彼の名前を呼ぶ。

「久しぶりですね、吉川さん。」

相手は、名前を覚えられていたことに少し驚いたようだった。

しばらく何かを考える素振りをして、ゆっくり口を開いた。

「…まどかは、元気ですか?」

その顔は切なそうに歪んでいた。
< 46 / 98 >

この作品をシェア

pagetop