私と彼の恋愛理論
その声に私の心臓は激しく鼓動した。

尚樹が何を言い出すのか、私には全く分からなかった。

困惑して固まる私に、尚樹が次に発したのは実に意外な言葉だった。


「ごめん。」

なぜ、尚樹が謝るの?

心当たりがなさ過ぎて不安になる。


「俺、まどかに言わないといけないことが沢山あって。」

左手の上置かれた彼の指に、力が入るのが分かる。


「今日はそれを言いに来た。」


本なんて探してない、その一言に安堵する。

何を打ち明けられるのか分からない不安より、彼が私を訪ねてきたことの嬉しさの方が上回った。


「俺、まどかのこと初めて会った時から好きだった。」

「え?」

私は思わず驚きの声を上げる。

「試験勉強の為なんかじゃない。まどかに会いたくてここに通ったんだ。」

あまりに驚きすぎて、今度は声も出なかった。

私に話しかけているのは、本当に尚樹本人なのか疑ったくらいだ。

「俺のものになったときは、嬉しすぎてもう死んでもいいと思った。」

言葉はもちろん、一度だってそんな素振りすら見せなかったじゃない。

もちろん、彼の愛情を感じていなかった訳ではないけれど、そんなにも自分のことを想っていてくれたことなんて、まるで気づかなかった。

「どんなに仕事が忙しくても、まどかに会いたくて仕方なかった。だから、毎日まどかに会いに行ってたんだ。」

深夜に私のベッドに潜り込みながら、終電もないし帰るのが面倒くさいと言っていたくせに。


「なのに、一度も言わなくて悪かった。」

彼が肩に掛けていた手が私をそのまま引き寄せる。

「まどか、愛してる。」

私は後ろから彼に抱きしめられていた。
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