私と彼の恋愛理論
私の目にはまた大粒の涙が溢れていた。

彼と付き合っている三年間、私は一度も彼の愛を疑ったことなんてなかった。

言葉にはしてくれなくても、彼が私を大事に思ってくれていることは知っていた。

時折、私にだけ見せる安心した顔。

必ず朝まで抱きしめてくれる腕。

私が作るご飯は絶対に残さなかった。


その全てを私は知っていたのに。

十分過ぎるくらいに気づいていたのに。

どうして、彼の手を離してしまったのだろう。


「尚樹、お願い。顔見せて。」


私がそう言うと、彼は抱きしめている腕の力を抜いてくれた。

振り返ると、今まで見たこともないような不安そうな顔の尚樹がいた。

本当に、愛おしいと思った。

私は彼の首に手を回して、そっと耳元でささやいた。

「私も、愛してる。」

不安な顔の尚樹が、一瞬にして安心した顔になった。

私達はそれ以降は何も言わずに、暫くその場で抱き合っていた。
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