私と彼の恋愛理論
カウンターに戻ると、里沙が呆れた顔で待っていた。

「おかえり。とりあえず、その顔なんとかしてきなよ。」

たくさん泣いたせいで、化粧は崩れ、ひどい顔になっているのだろう。

「はい、すみません。」

私は素直に好意に甘えることにした。

トイレへ向かう私の背中を、彼女の優しい声が追いかけてきた。

「まどか、よかったね。」

私のすっきりした顔から、彼女には全てお見通しだったのだろう。

振り返ると、親友は穏やかに笑っていた。



「で、聞いたの?」

トイレから戻ると、仕事の合間に里沙が尋ねてきた。

「聞いたって、何を?」

里沙はすっかり噂好きの近所のおばちゃんの顔になっていた。

「彼が引っ越した理由。」

親友は、やはりいきなり核心に迫ってきた。

「聞いてない。」

事実のまま答えると、里沙は信じられないと言わんばかりの顔をする。

「えっ、話が違うじゃない!…あ、これはまどかにじゃなくてあんたの彼氏に向けた発言ね。」

よく分からないが、里沙なりに心配してくれてるのだろう。

「とりあえず、いいの。今夜も会うことになってるし。」

「ちゃんと、聞きなよ。それが、すれ違った原因なんだから。それと…」

面倒見のいい親友に、その後も念入りに釘を刺された。




あのあと、尚樹は私の涙を手で掬いながら笑って言った。

「さすがに午後は仕事行くわ。」

どうやら、午前中は休暇にしていたらしい。

「今日、早番?」

「ううん、ラストまで。」

「じゃあ、8時に迎えに来る。」

そう告げると、そのまま出口へ向かって歩き出した。
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