私と彼の恋愛理論
仕事を終えて駐車場で待っていると、尚樹は本当に現れた。

乗り慣れたブルーの国産車の助手席に座ると、すごく安心した。

やっぱり、ここがいい。

尚樹の隣がいい。


簡単に食事を済ませてから、再び車で走り出す。

「どこ行くの?」

「どこか行きたいところある?」

「どこでもいいよ。うち来る?」

「どこでもいいなら、まかせて。」

それっきり、何故かどちらも喋らなかった。

静かな車内で、私は尚樹の運転する姿をこっそり見ていた。

彼を好きになったきっかけは、この横顔だったことを思い出しながら。



やがて、車はあるマンションの駐車場に止まった。

場所は尚樹の会社の近くだけど、私の家とはちょうど会社を挟んで反対側くらいだろうか。

「着いたよ。」

尚樹に降りるよう言われた私は、聞き返す。

「ここ、どこ?」

尚樹が、少しだけ意地悪そうに笑う。

「わかんない?」

私はムキになって返す。

「わかんないよ。」

尚樹は、そりゃそうかと笑いながら教えてくれた。



「俺の新しい家だよ。」
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