私と彼の恋愛理論
オートロックの鍵を開けて、エントランスに入る。

エレベーターに乗り込むと、尚樹は5階のボタンを押した。

「503号室ね。覚えて。」

初めて入る彼の新しい部屋。

私が場所を教えてもらうことがなかった部屋。

そして、私達の関係がこじれたきっかけの部屋だった。

彼が鍵を開けて、「入って」と言った瞬間、すごく緊張した。

「ほら、早く。」

玄関でもたもたしている私の手を引いて尚樹がリビングまで連れて行く。

明かりをつけると、思ったより広いリビングが現れた。

尚樹は私をソファに座らせると、対面式のキッチンでコーヒーを淹れ始めた。

広いリビングに設備が充実したキッチン。

ベッドが見あたらないから、きっと少なくとももう一部屋、寝室が別にあるのだろう。

私は尚樹が以前住んでいたワンルームの部屋を思い出していた。

学生時代から住んでいたというその部屋は、狭くてキッチンも何とかお湯が沸かせるくらいの粗末なものだった。

家賃も安いし、寝られればいいと言って、住まいに無頓着だった尚樹が、引っ越し先にこんなにいい部屋を選ぶなんて意外だった。

だから、つい部屋中を観察してしまった。

よくよく思い出してみれば、この部屋の家具も家電もまるで見覚えがない。今、私が座っているソファも初めて座るものだ。

よほど私の様子がおかしかったのか、尚樹はコーヒーをテーブルに置いた途端、吹き出した。

「ぷっ、キョロキョロしすぎだろ。」

「だって、あまりに前の部屋と違いすぎて…」


どうしたの?

聞こうとした瞬間、彼の言葉がそれを遮る。


「まどか。もう一つ、言わなきゃいけないことがあるんだ。」

私は頷いて、彼の言葉を待った。
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