私と彼の恋愛理論
初めて彼女を見かけたのは、たぶん半年くらい前。
うちの会社が直営しているカフェだった。
毎朝、眠気覚ましのコーヒーを求めて、一階のカフェに向かう。
窓際の席、いつもの定位置に座る彼女が、いつからか気になっていた。
とびきりの美人という訳じゃない。
でも、鼻筋が通った上品な顔立ちをしていた。
服装からして、それほど年上ではないだろうが、どこか知的で落ち着いた印象を受ける。
大きくはないがきれいな二重の瞳が見つめるのは、街行く人と街路樹の緑。
たまには、ああいうタイプと付き合ってみるのもいいかもな。
年上と付き合ったことがなかった俺は、興味本位でそんな風に思っていた。
だから、その数ヶ月後、たまたま同僚から誘われた合コンで、彼女が遅れて俺の向かい側に座った時、思わず心の中でほくそ笑んだ。
元々、恋愛に対しては、適度に積極的で、不真面目でもない方だ。
気に入った女の子がいれば口説くくらいのやる気はあるし、浮気性なわけでもない。
恋人がいないと生きていけない訳でもなく、他に楽しいことがあれば、むしろ必要ない。
あくまで、その程度。
恋愛なんて、数ある娯楽の一つで。
真剣に恋だの愛だのを語るなんて、テレビドラマか小説の世界だけだろう。
そう思っていた。