私と彼の恋愛理論
合コンで話した彼女は、思っていたよりもかなりさばけていて、ますます興味が湧いた。

彼女は毎朝顔を合わせている俺のことには全く気づいていないようで。

連絡先を聞き損ねた翌朝、いつもの席で声を掛けたら、ひどく驚いた顔をされた。

その日から、俺は毎朝彼女を口説き続ける。

彼女は一向に靡かなかったけど。

難攻不落と分かると、ますます燃える。あきらめが悪いのが、俺の長所だ。

久々の恋愛は、ただただ楽しかった。

そう、あの日の彼女に会うまでは。





いつもと違う夜の閉店間際の店内。

仕事を終え、帰ろうと思ってビルを一歩出たところで気づいた。

いつもの席に彼女がいる。

喪服を着て、ぼんやりと外の景色を眺めている。


どうしてだろう。

涙なんて落としていないけれど。

彼女は今、泣いているんじゃないか。

不思議とそう思った。


気づけば、俺は引き返して彼女の背中に声を掛けていた。

「今から、飲みに行こうか。」

静かに頷いた彼女の表情は、遠いあの日に俺が見て見ぬ振りをした作り笑いによく似ていた。
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