私と彼の恋愛理論
それは、遠い日の記憶の中。

俺が小6の時に、交通事故で父親が死んだ。

突然父親が居なくなって、悲しくて心細かった俺は、しばらく毎日泣き続けた。

その間、母親は「大丈夫だから」と言いながら、俺を慰め続けた。

俺の前では、一粒の涙も流さずに。


今思えば、母親だって泣きたかっただろう。誰かに慰めて守って欲しかっただろう。

俺は幼すぎて、あまりにも無力だった。

泣かせてやることも出来ずに、ただ精一杯に笑おうとする母親に、気づかない振りをした。


あの頃見た母親の作り笑顔が、目の前の彼女の顔に重なる。

泣くのを我慢して、無理に笑おうとする彼女が、たまらなく愛おしく見えた。


泣いて、いいよ。

俺の前でだけは我慢しなくてもいい。

酒の力を借りてでも。

今日だけは、泣きなよ。



必死に明るい話題を話しながら酒を飲む彼女に、とことん付き合った。

酒に強いはずの彼女が酔いつぶれて、やっと涙を流したとき、俺は彼女の頭を撫でながら、一つの答えにたどり着いた。




彼女を守りたい。


この気持ちこそ、恋じゃないかと。
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