私と彼の恋愛理論
彼女の口から出たのは、意外な質問だった。
「里沙ちゃん、意外と可愛いこと聞くね。それって、私のどこが好きって質問?」
図星だったのか、恥ずかしそうに湯船に顔を沈める彼女を、抱きしめ直す。
「嫌ならいいの。答えなくて。」
「嫌じゃないよ。ただ、ホントのこと言ったら引かれるかも。」
彼女のあの苦しげな作り笑いが、頭に浮かぶ。
首だけで振り返って、彼女は覚悟を決めたように微笑んだ。
それを見た俺には、本当のことを話す以外の選択肢と、言葉を選んで伝えるような余裕はなくなっていて。
「…俺の、母親に似てるんだよ。」
誤解を与えてしまいかねないような発言をしていた。
それを聞いた彼女は案の定、笑い出して失礼な確認をしてきた。
「もしかしてマザコンなの?」
「…やっぱり。ちょっと、言葉を間違えた。」
「いや、別に構わないわよ。男の人はだいたいがそうだって聞くし。」
そう言いながらも、彼女は俺を完全にからかうように見つめている。
「はっきり否定するけど、俺はマザコンじゃないから。」
「またまたぁ。」
「完全に親離れも、子離れも済んでるから。母親にはちゃんと恋人がいるし、盆と正月以外連絡取らないし。」
あまりに俺が懸命に弁解するのが、可笑しいのだろう。
彼女は、しばらく肩を震わせて笑っていた。
「ふぅ。冗談は、さておいて。」
ひとしきり俺をからかい終えると、彼女は再び俺に向き直って微笑んだ。
「私のどこがお母さんに似てるの?」
「いいよ、もうマザコンってことで。」
「ごめんって。ね、話して。」
珍しく可愛くおねだりする彼女に、俺はあっという間に機嫌を直した。
「話すと長くなるよ。」
「しばらく、のぼせそうにないから大丈夫。」
程良い湯加減のお湯は、本当に心地よくていつまでも入っていられそうだった。
俺は話し始める。
父の死と母の作り笑いの話。
あの日見た里沙の泣き顔のこと。
そして、今、手にしているこの温もりを何よりも守りたいと思っていること。
ただ静かに頷きながら話を聞く彼女が愛おしくて、俺は抱きしめる腕にわずかに力を込めた。
「里沙ちゃん、意外と可愛いこと聞くね。それって、私のどこが好きって質問?」
図星だったのか、恥ずかしそうに湯船に顔を沈める彼女を、抱きしめ直す。
「嫌ならいいの。答えなくて。」
「嫌じゃないよ。ただ、ホントのこと言ったら引かれるかも。」
彼女のあの苦しげな作り笑いが、頭に浮かぶ。
首だけで振り返って、彼女は覚悟を決めたように微笑んだ。
それを見た俺には、本当のことを話す以外の選択肢と、言葉を選んで伝えるような余裕はなくなっていて。
「…俺の、母親に似てるんだよ。」
誤解を与えてしまいかねないような発言をしていた。
それを聞いた彼女は案の定、笑い出して失礼な確認をしてきた。
「もしかしてマザコンなの?」
「…やっぱり。ちょっと、言葉を間違えた。」
「いや、別に構わないわよ。男の人はだいたいがそうだって聞くし。」
そう言いながらも、彼女は俺を完全にからかうように見つめている。
「はっきり否定するけど、俺はマザコンじゃないから。」
「またまたぁ。」
「完全に親離れも、子離れも済んでるから。母親にはちゃんと恋人がいるし、盆と正月以外連絡取らないし。」
あまりに俺が懸命に弁解するのが、可笑しいのだろう。
彼女は、しばらく肩を震わせて笑っていた。
「ふぅ。冗談は、さておいて。」
ひとしきり俺をからかい終えると、彼女は再び俺に向き直って微笑んだ。
「私のどこがお母さんに似てるの?」
「いいよ、もうマザコンってことで。」
「ごめんって。ね、話して。」
珍しく可愛くおねだりする彼女に、俺はあっという間に機嫌を直した。
「話すと長くなるよ。」
「しばらく、のぼせそうにないから大丈夫。」
程良い湯加減のお湯は、本当に心地よくていつまでも入っていられそうだった。
俺は話し始める。
父の死と母の作り笑いの話。
あの日見た里沙の泣き顔のこと。
そして、今、手にしているこの温もりを何よりも守りたいと思っていること。
ただ静かに頷きながら話を聞く彼女が愛おしくて、俺は抱きしめる腕にわずかに力を込めた。