臆病者達のボクシング奮闘記(第二話)
「そんなの無理だよぉ」

 堪らず言い返した康平だったが、亜樹も責めるつもりはないようで、むしろ康平以上に悩んでいる様子である。

「そうね。……ドリブルは根気強く練習しないと身に付かないから、球技大会までは厳しいかもね。……でもパスは出来そうだからやってみようよ! 片足で踏み込みながら、体全体でボールを押し出すイメージでパスしてみて!」


 何度パスを出しても上手くいかない康平に亜樹が言った。

「何て言うのかなぁ。……体の重心移動に遅れて腕を伸ばすって感じなのかな。……それと腕の力は抜いた方がいいわね! 試しにやってみてよ」

 彼女のアドバイスに従って康平が何度目かのパスを出した時、康平の指先にボールを押し出す感触が残った。

 放たれたボールは、今までよりも勢いよく亜樹の胸元へ吸い込まれていく。

「いいじゃん康平! 忘れないようにドンドン繰り返すよ」


 パシッ!

「ナイスパース!」


 パシッ!

「いいよ康平!」


 康平がパスを出す度、数人しかいない体育館に亜樹の声が響く。

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