臆病者達のボクシング奮闘記(第二話)
 普段の大人っぽい亜樹と違って、体育会系のノリになっている彼女を見た康平は、新鮮な気持ちでパスを繰り出していた。


 チェストパスの他にバウンドパスも練習した後、亜樹が康平に尋ねる。

「康平、まだ時間ある?」

「……あぁ大丈夫だよ」

「じゃあ、シュートも練習しちゃおうよ」

「えっ、俺ドヘタなんだけど?」

 康平は両手を前に出して遮るような仕草をした。

 亜樹は構わず康平にボールを渡す。

「フォームなんて気にしなくていいから、一回打ってみてよ」


「……笑うなよ」

 ボソっと言った康平は、フリースローの位置に立った。

 右の鎖骨の辺りでボールを持ち、両手で押し出すようにシュートをする。

 ボールは直接リングに当たり、右側へ大きく弾いた。


「自己流で打ってんだから、入らないのは当然なんだよ」

 康平は言い訳をしながらボールを拾いにいく。

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