臆病者達のボクシング奮闘記(第二話)
「……まだ言ってなかったと思うが、右パンチを打った後は、体は右に捻ったままで腕だけ戻すようにしておけよ! 右パンチを打った時は、左パンチの溜めを作るチャンスなんだからな。……ほら、もう一回右ストレートからいくぞ!」

 両手を重ねて構えた飯島に右ストレートを放ち、すぐに左フックを打とうとした康平だったが、飯島はまだ左ミットで構えていない状態だった。

 打ち始めの動作に入った康平はバランスを崩してしまった。

「オイオイ、ちゃんと見てから打てよ! ボクシングは相手があるスポーツだからな。……もう一回いくぞ!」


 再度飯島のミットへ右ストレートを打った康平は、左フックの溜めを作ったまま左ミットが上がるのを待っていた。勿論そこに左フックを打つ為である。


 ところが五秒経っても飯島の左ミットは上がってこない。

「まだまだぁ、我慢しろよ!」

 飯島は今にも左ミットを上げそうな素振りで、康平のフォームをじっくり見ていた。


 十数秒程経って左ミットが上がり、康平は左フックを打ったが快音は出ずに空を切り、右へ泳いだようにバランスを崩していた。

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