臆病者達のボクシング奮闘記(第二話)
 飯島の『壊されて』という言葉を聞いた為か、ボクシング場が一瞬沈黙した。


「……先生はマズイ事言っちゃったかなぁ」

 飯島は苦笑いしながら呟いた。

「飯島先生。この際現実を、一年生達に教えてやった方がいいかも知れないですね」

 梅田は一呼吸をした後、腹の底から出すような声で全員に語り掛ける。

「ボクシングは人の顔面を殴るろくでもないスポーツだ。顔面を殴られる事は頭部に衝撃がある事だ。……それは、取りも直さず脳に影響がある事なんだよ」

 全員黙って話を聞いていた。梅田はゆっくりと話を続ける。

「一年生はまだ経験ないかも知れんが、顔面を打たれて倒されるのは主に瞬間的な脳震盪(のうしんとう)が原因だ。……つまり、一瞬だが普通に立っていられない位、脳にダメージを負う事なんだよ」


 梅田が次に何を言おうか言葉を選んでいた時、健太が質問した。

「壊される、というのはパンチドランカーになるって事ですか?」

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