臆病者達のボクシング奮闘記(第二話)
「……届かない時が多いと思います」

 康平が自信無さげに答える。

「そうだな。離れている所から打っていくから、届かない時がほとんどだ。……だったら空振りするつもりで最初のジャブを打てばいいんだよ。そして二発目のジャブを強く当てるんだ。お前らは、最初のジャブから当てようとして打ってたからな」

 答えが合っていた為か、ホッとした表情の康平だったが、隣から白鳥が飯島に言った。

「だから先生は二発のジャブを受けていた時、納得出来なくて眉をひそめていたんですか?」

 飯島は意外そうな顔をしたが、人が悪いような表情になって二人に話す。

「納得出来なくて眉をひそめたんじゃないぞ。……それだったらお前らには、ずっと眉をひそめてなければならないからな」

 康平と白鳥が黙っているので、飯島は話を続けた。

「俺があんな表情をしたのは、別に理由があるんだよ。……一発目の左ジャブを打つ時、最初に俺が何を意識すると言った? 白鳥言ってみろ」

「引きを意識しろと言いました」

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