臆病者達のボクシング奮闘記(第二話)

「決め打ちと言うのは、文字通り打つ前から決めて打つ事なんだ」

「あ……はい」

 飯島の説明が期待はずれだったのか、二人は冴えない表情で返事をした。

「と、とにかく次のラウンドから始めるぞ」


 ラウンド開始のブザーが鳴り、康平からミット打ちが始まった。

 康平が左ボディーを打とうと、肩を右へ回し始めた瞬間から飯島が叫ぶ。

「引け!」

 思わず肩を戻した康平だったが、左拳はグローブの重みで飯島の左ミットまで届いていた。

 重くはないが、スコーンと抜けるような感触が康平の左拳に残る。

「振れ!」

 飯島が再び叫んだ時、康平は既に左フックを打つ溜めが充分に出来ていた。

 打ち易い体勢になっていたのもあってか、康平は思い切り左拳を振った。

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