臆病者達のボクシング奮闘記(第二話)
 バァーン!

 ミットの音が体育館に響き渡る。

「よーぉしっ! いいぞ高田。もうイッチョいくぞ!」

 飯島に褒められた康平は張り切り、再び引きを意識した左ボディーブローの後に左フックを強振する。

 ボスン!

 飯島の右ミットからキレの悪い音がした。

 一回目に打った左フックと全く違った感触だったので、康平は不思議に思った。

「先生、どうしてさっきのようにイイパンチが打てなかったんですか?」

「二回目に打った左フックは、胸が開いて撫でるようなパンチになってたからだよ。胸を開くと外側に力が逃げるからな」

 康平に質問された飯島は、上機嫌で答えた。更に彼は話を続けた。

「パンチの質を上げるには、俺の『だっちゅうの理論』というのがある」

「……『だっちゅうの』って何ですか?」

 康平が質問をする。シャドーボクシングをしている白鳥も、動きを止めて飯島を見ていた。

「何だ、高田は知らないのか? ……流行ったのは結構前だったからなぁ。巨乳タレントがテレビでよくやってたポーズなんだよ」

< 282 / 285 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop