臆病者達のボクシング奮闘記(第二話)
 そして梅田は、康平の右脇腹に左ボディーブローを寸止めで打った。

「高田、俺がやった意味が分かるか?」


 康平は少し悩んでから答えた。

「ブロッキングストレートは危険だという事ですか」

「いや違う。同じ返し技ばかりやると、相手に読まれるという事だ」

「何となく分かりました」

「と言う事はだ、俺が打った左ジャブと右ストレートをブロッキングストレートばかりで返してしまうと、更に相手に読まれ易くなってしまうんだよ」

「はい」康平は納得した表情で返事をした。


「基本的には、一つのパンチに対して二つ以上の返し技を教えるつもりだ。……もうラウンドが始まっているから、休み無しで続けるぞ」


 康平と梅田は、次のラウンドも同じパターンでミット打ちをしていたが、最初のラウンドより少しはマトモにパンチを返せたようである。

 ミットで頭を叩かれる回数も一回だけで終わったが、その直後に、
「集中よ集中!」
と叫ぶ田嶋の声が第二体育館に響いていた。

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