臆病者達のボクシング奮闘記(第二話)
「分からないようだったら、今素振りをしてみろ!」


 康平が右ストレートを打った時、息を吐きながら打つ自分を初めて自覚した。

 その事を伝えた康平に、梅田が再び話し始める。

「ほとんどの奴は、お前と同じように息を吐きながらパンチを打つんだよ。特に倒そうと思って強振した場合は、息を吐ききっている時が多い」


 興味深く聞いている康平に、梅田は更に話を続けた。

「俺が速く打つように言ってる理由は、相手が息を吐ききった時や、その直後の息を吸い始めた時にボディーを打たせたいんだよ。このタイミングは、腹に力が入らないから効果は倍増する」

「質問なんですけど、強く打たなくても相手に効くんですか?」

「最終的にはある程度強く打たなければならんが、今のお前の段階はまず速く打ち返すリズムを覚える事だ」

「それは、右へダッキングした時も同じなんでしょうか?」

「右へダッキングしろなんて、一言も言ってねぇだろうが」

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