Closed memory
蘭丸は黙って、俺を見つめたまま頷いた。
「……齋藤先生に勝てたのは、そんな俺とお前、二人いたからだと思う。この勝ちは俺とお前、二人の勝ちなんだよ」
京……と蘭丸の唇が動いた。
「……もしも、さ。今回の相手が齋藤先生じゃなくて、手練れの浪人だったら、俺たちどちらか一方が犠牲になって、その浪人を倒したってことになる」
「……犠牲」
今回は、蘭丸が先に戦い、そして齋藤先生の手首を斬って、齋藤先生によって胴を斬られた。
つまり、蘭丸はあの時死んだんだ。
そして手負いの齋藤先生を、俺が斬ったんだ……蘭丸の生命を犠牲にして。
「俺たちの今の実力じゃ、当然の結果だろうな」
蘭丸は俺に背を向けて、数歩先を歩いた。
蘭丸の背中を見ると、あの月の夜と重なる。
蘭丸はあの時のように顔だけで振り返って、
「……俺、強くなりたい。京よりも、齋藤先生よりも、他の誰よりも……強く。犠牲なんていらない。全員生きて、浪人を倒すよ」
そう言って笑った蘭丸は、誰よりも凛々しかった。
俺よりも一回り小さい背中が、何時もより大きく見えた。