Closed memory
そんな心配を他所に、蘭丸は少しも臆することもなく、次々と空いた皿を下げていく。
男は男で酒を味わっているらしく、蘭丸には目もくれていない。
「(どういうことだ…、蘭丸なんて元から眼中にないって事か?)」
確かに俺も蘭丸も、新選組隊士となった身だが、土方副長や沖田先生とは比べ物にならない程、剣の腕は劣る。
だけど、決して弱くはない。
浪人と闘ったら、多くの確率で勝つだろう。
「(まさか、気付いてないのか)」
そりゃ気付いてないなら、ない方が良い。
寧ろ男に、 そんな容易く密偵だと気付かれては一貫の終わりだ。
だけど、あれ程の空気を纏う男に限って、【見た目脅し】というのは、どうも引っ掛かる。
「………‼︎」
その時、男は動いた。
去ろうとしていた蘭丸を引き止め、傍に座らせる。
また、嫌な汗が流れた。
遠すぎて、直接は会話が聞き取れないが、口の動きで、大体の内容は理解できる。
男は、蘭丸にお酌をするように指示した。
蘭丸は、当たり障りのない微笑を浮かべ、男に応える。