Closed memory
蘭丸はやけに手慣れたように男の杯に酒を注ぐ。
男は杯に酒が満たされるのを静かに待つと、優雅にそれを飲み干した。
遠くから見た感じだと、二人の間に違和感は全くない。
男に殺気はなく、蘭丸もまた穏やかさを漂わせていた。
ーーだけど。
「……誰だ」
男の飼い犬は、穏やかではなさそうだ。
暗闇に向かって問い掛けると、奥の方で微かに床が軋んだ音がした。
「ーーっ」
そしてその刹那、何者かの気配が俺のすぐ背後に現れた。
ひやりとした物が、首筋に当てられる。
「…くっ…」
油断した。
山崎さんが持たせてくれた短刀も、使うことができなければ、意味をなさない。
懐の中にある短刀が一段と重みを増した気がした。
「ーー」
男は何を思ったのか、俺に当てていた物を外すと、外を指差した。
ついて来いということらしい。